読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

まはら三桃「無限の中心で」(講談社 2020)

まはら三桃は好きな児童文学者の一人。「材料」を駆使して読ませる物語を作るのがうまいなと思っています。今作では「数学」が物語の材料で、主人公・高2の女の子/とわが抱えるいとこの澗(かん)への消しがたい感情と数学を生涯に捧げる少年たちの心根が物語を支えています。

数学研究部の個性的な3人の部員と顧問の女性教諭は、数学のおもしろさを知らせるための大切なピース。そして澗はコミュニケーションや学習障害がありつつ独学で数学を極めていく、とわと対をなすもう一人の主人公。

毎週水曜日に数学研究部が数学の問題を黒板に書いておくと、木曜日の朝には独特の考え方で解答が書いてあるという7ミステリー時立てで始まる物語は、とわが作中にもう一つの物語(児童文学が好きな人ならきっと楽しめる)を作り出していくという理系と文系がうまくミックスし、好奇心をくすぐる仕掛けになっていて一気に読めるおもしろさがあります。

物語の最後は、とわが避けていた澗との距離が縮まり、澗がまさしく数学者なんだと気づかせてくれるステキな瞬間が待っています。とわが創り出した物語の終わりも、とわの気持ちがこもった幸福感に満ちています。

「無限の中心で」