読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

なかがわちひろ・作「かりんちゃんと十五人のおひなさま」(偕成社 2009)

〈おひなさま〉に込められる〈いろいろな人たちの気持ち〉がたっぷり描かれている作品…かと。

 〈あとがき〉に物語を書き上げるために2年の歳月を要した書いていますが、お話の細部にわたりじっくり時間をかけて書き込んだことがうかがえます。

 主人公の女の子・かりんのおばあちゃん・紫苑さんから贈られたおひなさまに込められたお守りとしての役割だったり、かりんが赤ちゃんの時に紫苑さんから贈られた犬のひな飾り〈あ〉〈ん〉がおひな様の家来でかりんの守り神だったり…。おひな様が〈守り子〉の災いやけがれを身に受けて川に流してしまう大切な役割を果たしていることなどを愛情深く描いています。

 また、かりんの友だちの家にあるそれぞれのひな飾りにも同じように、飾った人の気持ちがこもっていることも作者の温かい文で綴っています。

 楽しいしかけは、おとのさまとおひめさま、それに仕える者たちがかりんに語る茂御語りや行動。名前の付け方から各々の豊かな個性、そしてかりんに対するストレートな愛情、どれも心が温かくなるエピソードがいっぱい。

 180ページもありながら余計な部分がなく、最初から最後まで気持ちよく読み終える作品。

 3人の仕丁の1人がつぶやく数々(20箇)のことわざが、その時々の場面にぴったり。小学生には難しいことわざだけれど、〈あとがき〉の後に解説がついているのもご愛敬。

「かりんちゃんとのおひなさま」

 

吉藤オリィ「オリヒメ 人と人とをつなぐ分身ロボット」(子どもの未来社 2023)

いろいろな理由で外に出て働くことができない人や遠くに住んでいる人たちが、自分の分身ロボットを操作して働く〈オリヒメ〉の紹介と、オリヒメを開発した吉藤オリィさんの生い立ちから開発にいたるまでの経緯や人との関わりを描いた作品。ロボットという機械でありながら、とても人間らしいロボットを開発した吉藤オリィさんの気持ちが込められている文が読み手に伝わってきます。

 オリヒメを動かす人たちをパイロットと呼び、パイロットとなって人との関わりを得ながら働いたり、旅をすることで〈孤独〉を解消していくパイロット1人人ひとりの物語も心を打ちます。

「オリヒメ 人と人とをつなぐ分身ロボット」

 

濱野京子・作「シタマチ・レイクセド・ロード」(ポプラ社 2023)

本を読むのが粋な女の子・希和子が小学校からの友人に誘われ、廃部になりそうな文芸部に入るところから物語がスタート。希和子に想いを寄せる後輩の男の子が希和子に投げかける言葉の数々に触発され、希和子自身が気づいていない才能に目覚める瞬間がクロスする物語。

高校の文芸誌を作るという目標に、物語や詩を書いて出すという部員の能力と、物語は書けないけれど文を読む力があり、物語ではない文を書くことができるという違う能力を持つ希和子、それぞれが互いを認め合う場面に思いがこもっています。

文を本や冊子という形にしていく〈編集〉に光をあてた作品。

「シタマチ・レイクセド・ロード」

 

村上雅郁・作「きみの話を聞かせてくれよ」(フレーベル館 2023)

気持ちのすれ違いや努力が報われないこと、自分自身を縛ってしまうイメージ…いろいろな心のしこりを1人の男の子がちょっかいを出すように聞き、それがしこりをほどいていくきっかけになっていく…7つのつながっていく短編がそれぞれ絡み合い、読んで深まりを感じます。

最後に、その男の子がみんなの聞き役(しこりを指摘し、ほどいていく道筋を示す役割)になったきっかけを語り、そのきっかけづくりの始まりにいた教師のモノローグとともに、〈好きに生きろ〉という読み手へのメッセージにつながっています。

「きみの話を聞かせてくれよ」

 

なかがわちひろ・作「おじいちゃんちでおとまり」(ポプラ社 2006)

表紙をめくると「おじいちゃんちでおとまり」する理由がわずか4つの絵で表現されています。家族3人で両親は共働き、〈ぼく〉はけっこう自由気ままな性格だってことも分かります…うまさを感じる出だしです。

〈おじいちゃんち〉の居間には、世界中から集めたふしぎなものがいっぱいあり、これだけでこれからどんな物語になっていくのだろうとワクワクさせられます。

おじいちゃんとぼくがおふろ屋さんに行く場面は、ふしぎの世界に入り込む扉のよう。まるで南の無人島で自由に暮らしているかのような〈遊び〉がいっぱいの展開は、本当に楽しそう、読み手もその世界に入り込みそうになります。

1日限りの夢のような冒険の世界…気持ち良さが残ります。

「おじいちゃんちでおとまり」

 

角野栄子・作 さとうあや・絵「はな とりかえっこ」(偕成社 2023)

とても楽しい幼年物語。くしゃみアレルギーの要素もあり、今の時代にも合っています。

アラさんは、花がいっぱい咲いている春の空気の中、おもいっきり深呼吸をした瞬間、くしゃみが出て止まらなくなります。3日も続くと気持ちが悪く、何も手wpつけられません。思わず、こんな鼻をどこけ捨ててしもうかと鼻をつねると、ブタさんがやってきます。言うことには、〈鼻がいらないなら私の鼻と取り替えっこしせんか?〉。

ブタさんの鼻をつけたアラさんの行動が愉快です。くしゃみで始まり、くしゃいで終わるスタイルも何だか今風。

楽しいひとときを過ごせる物語。

「はな とりかえっこ」




森絵都「あしたのことば」(小峰書店 2020)

帯にはに〈言葉をテーマに綴る8つの物語〉とあり、作者が選び取り、言葉を大事にしたパターンの違う短編が詰まっています。1編ごとに違う画家がタイトルの絵を描き、物語の雰囲気や色あいが違うことを印象づけていますが、何より書きわける作者のすごさを感じます。これなら読める、自分の気持ちにしっくりくる物語に出会える短編集。言葉を拾い集めること、伝えること、感じること、分かりあうこと…〈言葉〉が持つ深さを堪能しました。

「あの子がにがて」で使われている〈馬が合わない〉〈虫が好かない〉〈犬猿の仲〉などの言葉を、「こんだけいろんな言葉ができたのは、やっぱり遠いむかしから、どこにでも、だれにでも、にがてなあいてがおったせいちゃうやろか。そのあいてへの腹立ちを、むかしの日本人は、うまいこと馬や虫にすりかえようとしたのかもしれん。人類の英知やな」とうまく説明し、教えられています。

短編集最後でタイトル作の「あしたのことば」の一節「…ふりむくと、男子のひtり、小林くんが笑った〈またあした、遊ぼうや!〉…たったひとこと。短い言葉だった…心が、遠い星へ発つロケットみたいに、ぐわんとうきだった。…小林くんがくれたのは、あしたの言葉。新しい町へきたぼくの、新しい未来へつながる言葉だった」は、心が持っていかれるような文。

「あしたのことば」