読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

野村たかあき:作・絵「らくごえほん しにがみさん」(教育画劇 2004)

柳家小三治・落語「死神」より』シリーズの1冊。

子ども向けに文を省いている部分を木版画の世界が補っている。まさに絵本ならではのできばえ。

小三治師匠が思い描く江戸の庶民や商家の暮らし、街の細かいところを木版画が収まりの良い色づかいで表現しているのではないかと思う。

話の筋も淡々としていながら声に出して読むと、主人王と死神のやり取りがテンポ良く進んでいく。銭を蓄え、明日ではなく、未来の暮らしを考える習慣がなあった当時の庶民の考え方があっての話なのかとも…。最後のオチへもっていくくだりの文の少なさと絵の雄弁さがうまいなと思う。

「しにがみさん」

 

野村たかあき:作・絵「そこつ長屋」(教育画劇 2019)

元は「柳家小三治・落語〈粗忽長屋〉より」。

表紙をめくると小三治師匠による「長屋住まいの庶民の暮らし」のミニ解説。

話の手始めに、話のカギとなるそそっかしい粗忽者の説明を付け、浅草・浅草寺界隈の賑わいをくっきりとした木版画で描き、行き倒れを見た八っぁんのとんでもないそこつ・そしっかしさをテンポ良く描いています。

一気に読んで、そのそそっしかしさと行き倒れと勘違いされる熊さんまでが加わってしまう二重のそこつさ…それ故に起きてしまう現実とのギャップにとまどう熊さんの心持ち…オチを知っていても繰り返しおもしろさを楽しめます。

考えることなく、話の展開のでたらめさを味わえます。

「そこつ長屋」

 

野村たかあき:作・絵「ねこのさら」(教育画劇 2017)

元は「柳家小三治・落語〈猫の皿〉より」。

シリーズ5冊の中では解説なしですんなりとお話を楽しめる作品。文と絵が一体となり、自分の目利きを過信し、人の良さそうな茶店の主人を欺こうとする道具屋の表情と人の良さを演出しながら道具屋を出し抜く茶店の主を描いています。

最後の2ページは、お話そのもののおかしさが惜しみなく出ています。

「ねこのさら」

 

デイブ・メイソン再び

最近、デイブ・メイソンのレコード、CD、DVDを聴きなおしている。

曲づくりのうまさとカバー曲の良さ、豊かで包み込むような声のボーカル、空を舞うような独特のギター、12弦のアコースティックギターの音もきらめくよう…何もかもが良い。

レコード盤は、「ライブ 情念」(1976)と「レット・イット・フロー」(1977)の2枚。散歩には、「レット・イット・フロー」をMP3プレーヤーに入れて愛聴。「情念」はCDで買い直し、ライブのDVDとセットで聴いている。

CDは「黄金の蝶」(1978)と「アローン・トゥギャザー ヘッドキーパー」の2枚分を1枚にした編集もの。

ファーストアルバムの「アローン・トゥギャザー」は、デラニー&ボニーの定番となった曲をふくめ、スワンプ色の濃い曲が並ぶが、後にデイブ・メイソンの定番となる曲はかなり曲調が変化している。

彼のほんの一部でしかないけれど、デイブ・メイソンは4~5年で不動のデイブ・メイソンに変化し、太くて温かみがあり、ちょっとウェットな曲とサウンドを確立したと思っています。

その顕著な部分が、ジム・クリューガーと組んだ「情念」からライブDVD「ライブ・アット・パーキンス・プレイス1981」、そして、バンド編成のDVD「ライブ・アット・サンライズ」(2002)い表れている。サム・クックやジミ・ヘンドリックへの敬愛、そして自曲の完成されたアレンジ、特徴あるボーカルとコーラスワーク、そして自慢のギターのフレーズ、誰にも似ていない唯一の存在…そんな域に達しているように思えます。

「ライブ 情念」レコードジャケット表

「情念」レコードジャケット裏

「情念」レコードジャケット中

「レット・イット・フロー」レコードジャケット表

「レット・イット・フロー」レコードジャケット裏

左上「CD黄金の蝶」 右上「情念」
 下「アローン・トゥギャザー ヘッドキーパー」

DVD[ライブ・アット・パーキンス・プレイス1981

DVD「ライブ・アット・サンライズ

 

ナンシー関「超傑作選 ナンシー関 リターンズ」(世界文化社 2022)

堪能しました。以前。「噂の真相」を購読していた時、楽しみだったのは小田嶋隆さんとナンシー関のコラム。

ナンシー関作の雑貨やお遊びグッズ、単行本では収録していない作品の数々、分厚さとたっぷりのおまけ、そして編集の良さ、ありがたやです。

どれもこれもだけれど、「松田聖子の両手握手」はさすがの鋭い観察眼。詳しくは読んでもらうに限るが、ざっと引用すると、「松田聖子が芸能界に残してきた数々の功罪のうち、ひとつだけ気になるものがある。それは〈両手握手の伝統〉…この両手握手のそもそもは松田聖子から始まっているのである…この悪しい伝統の始まりの瞬間を、私ははっきりと覚えている」。

アイドルからファンへの施しという商品化とは別に、市井の素人レベルまで及んでいることに、「松田聖子の残した、最大の罪のひとつであろう」と書いています。

初めて読んだ「彫っていく私 ナンシー関自伝」もそうだけど、読める文のうまさを今更ながら感じています。

没後20年で生誕60年、30代ですさまじい数のとっぽい消しゴムはんこを彫り、テレビや雑誌越しから彼女のアンテナにひっかかった有名人を料理してしまう腕の良さは格別。

かつて、田中邦衛がマウスを追いかけるスクリーンセイバーのようなものをダウンロードして遊んだことも思い出しました。田中邦衛もののコラムもいくつか収められているけれど、うなってしまう。

 

「超傑作選 ナンシー関 リターンズ」

 

 

「障害をしゃべろう! 上巻」(青土社 2022)

サブタイトルは、「〈コトノネ〉が考えたこと、障害と福祉のこと」。

季刊雑誌「コトノネ」紙上での15人のインタビューをまとめたもの。

読んだのは、東田直樹「地下水が聞こえる」、稲垣えみ子「電気コンセントを外して、ああ、さっぱりした」、向谷地生良「悩むつえあさ、病まないむなしさ」、六車由美「ようこそ、驚きの介護民俗学へ」、岡田美智男「弱いロボットだから、できること」。

自閉症の東田さんの言葉を活字で読めるありがたさ、町全体がらが家という稲垣さん、べてるを立ち上げた頃の話が聞けた向谷地さん、会議施設の利用者が語る世界が民俗学につながる驚きを伝えてくれた六車さん、弱いロボットの弱さが取り持つ縁という価値観がひっくり返る岡田さん…内容を十分理解できたとは思えないけれど、十分な刺激にはなりました。

「障害をしゃべろう! 上巻」

 

湯本香樹実・文 酒井駒子・絵「くまとやまねこ」(河出書房新社 2008)

愛するものを失った悲しさ、きのうまで仲よく話をして、きのうが今日、明日へと続くと思っていたのに突然途切れてしまった悲しさ…みんなは辛いだろうけれど忘れなさいと言うばかり。

n「くまとやまねこ」では、くまと仲よしのことりが突然死んでしまいます。この悲しさを癒やし、乗り越える手伝いをするのがやまねこ。

やまねこの言葉と音楽…忘れることではなく、いつも一緒にいるという思い、必要とする人に届けばいいなと思う作品。

2人の共著「橋の上で」と対になる作品。

ラストの場面は、ラスカル・文の「オレゴンの旅」を思い出す。

「くまとやまねこ」