マイケル・モーパーゴ:作「ガリバーのむすこ」(小学館 2022)
「ガリバー旅行記」を題材にしながら、作品を読んでいなくても読んでいくうちに実に良いタイトルだなと感じる物語。
アフガニスタンで父親と妹を内戦で失った男の子が、母親より先に船でイギリスをめざしつつ船の難破で小人の国にたどり着きます。
その国には300年ほど前にガリバーがたどり着き、隣の島との争いを鎮めた歴史がありました。
この物語では、時を現代に置き換え、なかよく平和に暮らしていても油断をすると独裁者は現れ、些細な理由で互いの国の住民たちが憎しみ合う…物語ではゆで卵の殻をどこから割るかという作者の皮肉を効かせています…どうやってその争いを収めたのかと主人公の男の子がかつてのガリバー同様、元の世界に戻る大きな流れを持ったお話です。
物語は、主人公の男の子ばかりではなく、男の子と兄弟のように寄り添う小人や元の世界に戻る冒険と支え役を果たす女の子が章を変えて語りで進めていきます。
言葉の大切さ、クリケットというスポーツが果たす大きな役割、コロポックル伝説のように小人の世界があちこちにあるという土着性…何よりも読んでいて読みやすく理解しやすく、現代社会・世界を考える大きな刺激となる物語になっています。