読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

照屋俊之「海のヤカラ」(ポプラ社 2022)

ガレッジセールのゴリさんが書いた物語。沖縄がアメリカ統治下だった1970年という時代背景に、子どもたちの友情あふれる成長物語で、かつ平和を願う物語。

物語に入る前に、〈はじめに〉で沖縄の簡単な歴史と当時の沖縄が置かれていた特殊な状況を紹介しているので、今の子どもたちにはとっては初めて知る事実だと思うし、この部分があることで物語の世界にすんなりと溶け込んでいける。

糸満で漁師をしている父親、父親がとった魚を那覇まで売りに行く母親、その子ども・ヤカラが主人公。10歳のヤカラは父親の漁についていき、漁に参加するほどのたくましい子ども。

父親たちウミンチュがヤカラに体験させる伝統的漁法・アギヤー漁や沖縄で一番古い富森(ともり)のシーサー、魚をタライに入れ、頭の上に載せて売り歩くカミアキネーサー、魚のマース煮、木製の船(サバニ)競うハーレーなど沖縄の文化や伝統をうまく取り入れ、沖縄を理解するためのテキストにもなっている。

物語の中心は、戦争巻に米軍が沖縄に上陸し、20万人以上の人たちが亡くなり、戦後はアメリカが統治したことで沖縄が自分たちのことを自分たちで決められない「アメリカ世」になったことがヤカラたち子どもたちの世界にもその現実が押し寄せ、ハーフの同級生マギイとの関わりが描かれます。

いろいろな表情、個性を見せるヤカラの友だちや戦争によって傷つけられた子どもたちがヤカラと関わり合って友だちになっていく物語は、子どもたちに受け入れられることと思います。タイトルの意味がそのまま全編にわたり活かされています。

沖縄の本土復帰50年という節目に出版されたことも意義深く、6月23日の「慰霊の日」に思いをはせるきっかけにもなるかも。

照屋俊之「海ヤカラ」