読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

マイケル・モーパーゴ:作「ケンスケの王国」(評論社 2002)

ほぼ20年前の作品。

時代背景は、1980年代末。ヨットで世界一周をめざした3人家族の子ども・マイケルが飼い犬とともに海に落ち、流れ着いた無人島での体験を描いています。加えて、1972年、74年にグワム島、ルバング島から奇跡的に生還した横井さn、小野田さんという旧日本軍兵士のことも背景になっています。

マイケルが流れ着いた島にはたった一人で40年以上もそこで暮らしているケンスケという老人がいます。

物語は2人が暮らした1年あまりの間に絵を介在して心を通じ合わせ、島での心豊かな日々を描くと同時に、ケンスケが生きる意味とマイケルの揺れ動く心のうちの対比に読み応えを感じます。

世界から隔絶した無人島でも動物をめぐる現代の問題はあり、戦争の痛手を引きずり忘れ去られた存在としてひっそり生きているケンスケにも〈今〉をどう生きるのか問いかけがあります。

マイケルにとって、ケンスケとの暮らしの中から、絵を描き続けること、信頼し合うこと、心豊かな暮らしの意味、家族への愛など、いくつも物語から拾い上げることができます。

終わり方に明るさがあり、いい物語を読んだという余韻に浸れます。

「ケンスケの王国」