読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

六車由美「驚きの介護民俗学」(医学書院 2012)

この続編と言うべき「介護民俗学へようこそ!」から先に手を付け、遡るようにこの本を読んだ次第。

読む前に、タイトルが大胆だなと思っていたのが、終章の「驚き続けること」という文の中で本書で使用している「驚き」の意味について書いていて氷解。タイトルへの強い思い入れと「驚き」という言葉を見いだしてくれた編集者の言葉「…六車さんの介護民俗学のキーワードは〈驚き〉ですね。…〈驚き〉ということを一本通ったテーマとして連載を書いて…」と依頼されたくだりは、まさしくこの作品の根っこです。

ディサービス、特養、ショートスティなど、著者が民俗学の世界から介護の世界に飛び込んでからその時々の立場や職種は違っても介護施設での利用者が語る物語を聞き書きし、その人の「思い出の記」として記録していく過程は、「…聞き書きでは、社会や時代、そしてそこに生きてきた人間の暮らしを知りたいという絶え間ない学問的好奇心と探究心により利用者の語りにストレートに向き合う」ことだと述べています。また、「生きた証を継承する〈思い出の記〉」という文では、「介護の現場が利用者にとって広義のターミナルケアだと自覚してからは、私自身、一回一回の利用者の語りがその方の人生にとっていかに重みのあるのかということを痛切に感じてきた。また、聞きっぱなしで終わりにせずに、語り手の存命中に形のあるものへとまとめることが、自分に課せられた大きな使命…できる限り、お聞きしたものを〈思い出の記〉としてまとめ、利用者本人とともにご家族にも渡す…その〈思い出の記〉が、民俗学でいう保存と継承の役割を果たしているのではないかと思うの」とも綴っています。

断片的ながらたくさんの人との出会いから生まれたその人だけ、その人ならの物語が紹介され、聞き書きの豊かさが詰まっていて、テーマではなくその人を丸ごと聞き書きすることの可能性を感じます。自分が自分を綴る〈自分史〉とは違い、〈聞き出す、拾い出す、引き出す〉能力を持った人と語る人が協同で作っていく表現作用はダイナミック。言い方が悪いかもしれないがおもしろい…です。

介護の現場の職種や余裕のない仕事、回想法という技法との違い、民俗学を学んだ学生へに対する介護の世界への誘いなど、著者が当時考えていたさまざまなことをうかがい知るテキストとも捉えることができます。

聞き書き〉の一端に触れるだけでも刺激になります、なりました。

「驚きの介護民俗学