読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

なかがわちひろ・作「カモのきょうだい クリとゴマ」(アリス館 2011)

これはお話ではなくノンフィクション。著者の子ども・ゲン君が大雨で水浸しになっていた田んぼのあぜ道に残されたカルガモの卵を持ち帰り、卵をふ化させ、ヒナを育て、近くの遊水池に放ち、著者の家族から離れ、親離れするところまでを綴っています。

観察記録であり、育ての親の気持ち、自然界で生き延びて欲しいという思い…いろいろな心持ちが込められ、詰まっている作品。

幼い頃からさまざまな生き物を飼っていたゲン君、そして家族全員が生き物好きという作者だからこそ書けた作品でもあります。ゲン君が手際よくふ化の準備をするさまは、たくさんの経験を積んでいるからこそできた実力。

そして、最初から家族全員が自然界に戻すためにできることをする、という原則が貫かれているところがスゴいな…と。そして、作者にとってはクリとゴマの母親感覚も忘れないところもいいな…と。

何とかふ化した2羽は羽根の色から〈クリとゴマ〉と名付けられ、成長のようすや飼育のために工夫したあれこれ、同じ兄弟ながらまるで性格が違うクリとゴマ…子どもの成長と同じように日々成長していくようすの描写は思わず引き込まれます。

作者の観察した2羽のスケッチや家族が撮った写真も家族と2羽の関係の濃さが分かり、楽しめます。

先に独り立ちをしたゴマよりも、作者の近くにいたクリを心配しながらも親離れした時の安堵感で終わるラストは読み手も満足感に浸れます。

〈あとがき〉に作者の気持ちや本にまとめた思いが綴られ、野鳥とのつきあい方も学べます。

「かものきょうだい クリとゴマ」