八束澄子「ぼくたちはまだ出逢っていない」(ポプラ社 2022)
タイトルは、読み進めていくとなるほどと「しっくり馴染んできます。
中3の陸と樹、そして中2の少女・美雨、3人が主人公。3人それぞれが感じている疎外案や居場所のなさ、自分ではどうしようもないことや抱えていることを日本の伝統工芸が3人の結びつけ、互いを刺激しあい、理解することで自身の自立に目覚めていきます。
3人それぞれの家族の形やありようと向き合う気持ちの変化や自分を苛立たせている心のモヤモヤに向き合っていく展開はムリがなく、3人それぞれの気持ちに寄り添うことができます。
家族と個人の問題と3人が互いに認め合う関係に育っていくさまも気持ちよく読めます。
何といっても作者が直接体験した伝統工芸のすばらしさが物語全体に沁み当たり、人と人とを結びつける力や美雨の「ありのままを受け入れ、傷ついたその姿に美を見いだす」の言葉は心に響きます。
3人が出逢うことになるもの…そして作者の後書きが心地よさを感じます。