読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

浅野竜・作 中村隆・絵「シャンシャン、夏だより」(講談社 2022)

「ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作品」。選者の斉藤洋富安陽子の両氏がそろって物語最初のエピソードと強烈な個性を発揮しているヒロイン・川村ちとせのことを選んだポイントに挙げている。

物語の中心にいる3人の子どもたちを含む家族の物語とも読める作品。

主人公は小6のノブトはごく普通の平凡で特に長所はないと思っている。家族は無口だけれど、地域でも数少なくなった米中心専業農家を営む父さん、ちとせにも気づかいをみせるしっかりもののお母さん、成績優秀で将来は農業関係の研究者などの専門職をめざす姉の4人。

ちとせは、新聞配達をしているお父さんとの二人暮らし。お父さんは世渡りがへたで、普段は無口だけれどお酒の失敗であちこちを渡り歩いてきた。

ノブトの友だち・カモッチは自分の未来を見据えて難関の市立高校をめざし、塾通い。一見ノブトとは接点がないように見えてもカモッチはいなか丸出しのノブトの存在が何やら好きらしい。

物語は、ちとせが以前南方で見たクマゼミ探しにノブトとカモッチも関わり、夏休みのラジオ体操の世話役になったノブトにちとせが加わり、勉強嫌いなちとせに秀才のカモッチが教えたり…3人それぞれの家庭・家族の事情がありながらも互いに分かりあえるようになっていくさまは心にしっくりする。

3人そろってハッピーエンドとはいかないけれど、いい終わり方だと感じる。

お母さんがノブトにかけるねぎらいの言葉に味がある。

農家の息子・ノブトが将来もこの地から動かない存在に対して、転勤族の父親を持つカモッチと自ら動かざる終えないちとせの父親という図式もおもしろい。

表紙を含め、雰囲気のある絵も物語の世界と合っている。

「ちゅうでん児童文学賞大賞」受賞作品は毎回注目して読んでいる。

「シャンシャン、夏だより」