読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

E.L.カニグズバーグ「スカイラー通り19番地」(岩波書店 2004)

以前読み、もう一度読みたいと思いつつも作者とタイトルを忘れてしまい、探し当てるまでにずいぶんと時間を要しました。記憶では、兄弟がアウトサイダーアートと呼ばれる芸術分野の塔を建て、その塔が壊されるのを阻止する…そんな断片的な記憶だったので、仕方がないといえばそれっきり。

それにしても作者がカニグズバーグで訳が金原瑞人さんだったことを忘れるとは…迂闊の一言。

再読して、個性が際立つ登場人物たち、会話のセンス、ウトサイダーアートを扱う感覚、明確な意思を持って行動するキーパーソンたちにワクワクし、当然のことながら物語そのもののおもしろさは、20年の時を経て、今そのもの。

物語の筋はさておき、個人的に思っている物語を進めていく大事なピースは、ジェイクの存在。

ジェイクがマーガレットの意志の強さを知り、モリス、アレックスというマーガレットのおじさんの強烈な個性と2人が建てた塔の美しさに本当の自分に目覚め、マーガレットと塔を結びつけた場面は感動もの。

「…おじさんたちが塔を作るのは、ふたりが人間で、塔を作れるからだ。ぼくには塔の考えていることがわかる…塔は、物語を語っている。意味)(センス)と無意味(ナンセンス)でいっぱいの物語…もしも、人生に、建物と、職人と、しっかりした足場があるなら、それにナンセンスをぶらさえよう。こわれた破片は、人生に色と音楽を与える。建物をきちんとがんじょうに建てたら、つぐはそれに色をつけよう。〈なぜ〉とたずねてはいけない。〈いいんじゃないか〉といおう。塔はぼくにそう語っている」

それから先のマーガレットがたどり着くアウトサイダーアートの深い理解者・ピーター、法律や実務に強いやり手のロレッタとチームを組み、3段階の作戦を実行していくさまはスピード感に溢れ、ぢきどきもの。

なるほどと思うのは、かなりのページを割いて描いたマーガレットが参加したキャンプでのいじめを、ジェイクのアイデアで最後のどんでん返しにしてしまうところ。このことによって、いじめの加害者だった恩の子たちにも自分たちを顧みるチャンスを与え、その後の塔の物語に加われることになったように思います。

再読して物語そのものが良かったのは確かだけれど、日本語で読めるように訳した金原瑞人さんの腕も確か…だと思っています。

 

「スカイラー通り19番地」

年を経ても年を経ても