読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

マイ・シューヴァル ペール・ヴァールー「笑う警官」(角川文庫 2013)

マルティン・ベック」シリーズ4作目で、最初の発売は1972年。

シリーズ読み直しで4冊目。順序よく読んでいないが、マルティン・ベックを中心にいろいろな分野の能力に長けた捜査官たちのチームプレイによる緻密な犯人追跡が魅力。

今作では2階建てバスの中で起きた機関銃による無差別乗客殺害事件がメインの事件のように見えながら、16年前の未解決事件が根底にあり、その核心に触れた1人の警官の単独捜査が事件のとっかかりであり、かつ解決の糸口になるという実に複雑に絡んだ物語。

推理小説ではなく、感情の起伏や心情描写に富んだベックとコルベリを中心に捜査官たちの頭脳と辛抱強い捜査の過程を積み上げる警察小節。

捜査対象となる人たちへの聞き取りとその検証はとても細かく、しかも対象者の背景に踏み込む勘所の描写がとてもおもしろい。

どの作品も捜査の行き詰まりをものともせず、断片的な事件の端緒をつかまえるとそれぞれの能力を一気に発揮し、次第に真相にたどり着く筆力のすごさは読み応え抜群。

また、地方警察の捜査官がチームに加わり、それぞれの作品ごとに絶妙の味付けをしている。今回もくらいつたら話さない警官が最後にベックに伝える電話が軽妙。作品のタイトルに結びつき、長い物語の締めくくりに〈してやったり〉のオチを添えている。

このオチが、笑わないマルティン・ベックの心情にも通じているのかも。

「笑う警官」