読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

まはら三桃「たまごを持つように」(講談社 2009)

〈あとがき〉にある「弓道が真ん中にある女子中学生のお話です。書き終えて、今すがすがしい気分です。」がまさしくそのまんま。読み手も同じように清々しさを味わっています。

余計なサイドストーリーがなく、4人の中学生が弓道を通して丸ごと自分を知る青春物語。

優秀ではあるけれど自分の才能の限界が分かり、かつ他の何かにも挑戦してみたい由佳。弓は武器ではなく、自分の心と向き合うための道具だと、世界中の人に伝えたいと思う春。弓道の神様に呼ばれたと言われながら、その才能と体のバランスが崩れ、長期のスランプから立ち直る実良。そして、主人公・早弥の言葉「自分は一度にたくさん進めない。以前はそれがいやだった。なんでも器用にこなす春や、特別な才能を持っている実良のことが、うらやましくてたまらなかった。彼らの姿は、できない自分を映す鏡…二年半、不器用に弓道を続けて…一歩一歩しか歩けないのなら、長い間歩いていけばいいのだろう…人が歩みをやめてしまっても歩いていけばいいし、やめてしまても、ひたすら続けていけばいい」は、読み手に届きます。

文中、由佳や実良、春の心の声に触れる場面がさらりと語られ、4人の個性や抱え持つ気持ちが自然と入ってきます。

弓道の所作や動き、静けさの中での張り詰めた空気や音、弓道の奥深さとその世界で成長していく4人の姿が限りなく美しい。

ライバルとなる少女たちや顧問の強雨・指導者の描き方や言葉も物語にかけがえのない役割を果たしています。

タイトルと表紙の絵を、読み終えてから見直すとなるほどと納得。

「たまごを持つように」