読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

マイ・シューヴァル ペール・ヴァールー「唾棄すべき男」(角川書店 1976)

マルティン・ベック」シリーズ7作目。長い期間をかけて事件の真相にたどり着くこれまでの作品とは違い、チームの中のベックとルンが2日間眠らずに犯人を割り出し、ベックは最悪の事態に陥りながらも、親友のコルベリ、性格は悪いが腕っこきのラーソンの活躍で事件を解決。

タイトルが事件の背景・始まりそのものであることを示し、事件の解決とは裏腹に、事件の発端になった過去から現在に至る警察官の資質のあり方に、作者は後味の悪さを書き残したように感じる。

作中、作者はベックに自身のことを積極的に語らせないが、シリーズを通して家庭・家族の変化を綴り、シリーズ10作を通してベックの心理的な再生を描いている。同時に、親友・コルベリの私生活を垣間見せることでベックとは違う仕事観と家族観を見せている。

45年くらい前の作品だが、ベックを中心とする捜査チームのそれぞれの個性や人生観を描く警察小説として個人的には心に残る物語。

読んだのは文庫版ではなく最初の単行本。

「唾棄すべき男」(角川文庫)