リンダ・ロンシュタット DVD「FAITHLESS LOVE](1980)
数年ぶりに観る。70年代前半から中頃の彼女のヒット曲がてんこ盛り。しっとりの婆ラード、明るいカントリー、古いロックンロール、力強いロック…自身の曲やカバーを含め、貫禄のステージが観られる。
この作品は、テレビ放映をDVDにしたもの。さほど大きくはないホールのせいと充実したバンド(ピーター・アッシャー、ビル・ペイン、ダニー・コーチマー、ラス・カンケルなど)が控えていることもあり、観客の満足度が高いことが画面越しに伝わってくる。
リトル・フィートの「WIKKIN'」とニール・ヤングの「LOOK OUT FOR MY LOVE」、マーサ&ヴァンデラスの「HEATWAVE」を聴くことができて良かった。
リンダ・ロンシュタットの曲を選ぶ眼力と歌う力を感じる作品。
元ちとせ×坂本龍一「死んだ女の子」
昨日の「報道特集」で、金平茂紀キャスターが元ちとせに「死んだ女の子」の録音に関して坂本龍一氏との関わりをインタビューしている映像が流れた。
元ちとせさんと坂本龍一氏のやり取り、ニューヨークで録音したときの坂本龍一氏のエピソード(この曲の意義や意味、詩の内容を坂本龍一氏がオーケストラの面々に英語で語り伝えたこと)を聞き、この曲に込めた2人の思いを初めて知った次第。
この曲を収めたCD「平和元年」は、頻繁に聴いたり、繰り返し聴くにはけっこう重いので年1回程度がせいぜい。
ただ、元ちとせのデビュー時から間宮工氏が作る曲が好きだったので、編曲全体を担当しているのは個人的に好みのアルバム。
1曲目のピート・シーガーの「腰まで泥まみれ」の圧倒的にカッコ良いブラスロックに仕上げたところからさすがの思い。曲ごとに多彩な音を組み合わせ、原曲とは趣を変え、元ちとせに合った曲にしているところにうまさを感じる。
最後の「さとうきび畑」、デビュー前のデモ音源との解説があり、「Hajime Chitose」「コトノハ」当時の声を思い出す。
久しぶりに元ちとせさんと金平茂紀キャスター2人の姿を見て、筑紫哲也氏と「NEWS23」が輝いていた時代につながり…1つの曲が人と人とを結びつけていることにも感じる次第。
伊藤充子・作 ながしまひろみ・絵「にわか魔女のタマユラさん」(偕成社 2022)
ながしまひろみさんの柔らかで温かみのある絵が、ほほえましい物語の世界を広げています。
おかっぱ頭のタマユラさんがしている喫茶店は、ミネストローネとシフォンケーキがおいしくて評判の店。ある日、タマユラさんがヨルさんと呼んでいるお客のおばあさんが旅行に出るので、荷物を預かって欲しいと頼み込み、荷物と道具にすてきな名前を付けて、使って欲しいと告げて消えてしまいます。
タマユラさんがカバンを開けると、大きななべ、持ち手の長いほうき、鉢植えの植物、黒いネコが飛び出て…。
タマユラさんがそれぞれにステキな名前を付けると話ができるようになり、タマユラさんは〈にわか魔女〉に変身。
物語はタマユラさんがネコ、なべ、ほうき、植物たちと協力しながら、探し物・困りごとを抱えている人たち、ものたちを助けるお話。タマユラさんが出会ういろいろな動物たちもステキな名前を付けるとタマユラさんと話ができるようになり、助けるヒント役になっていきます。
物語の最後にヨルさんの秘密にたどり着き、まるく幸せに終わりますが、その終わり方がとてもステキ。
なかがわちひろ・作「ぼくには しっぽが あったらしい」(理論社 1998)
人類や動物の進化の歩みを〈しっぽ〉を代表的に選び、しっぽがあったらどうなんだろう?を子どもたちに考えさせてしまううまい読み物。
〈しっぽ〉から始まり、〈体毛〉〈うろこ〉〈触覚〉〈超音波〉など今は失われてしまった器官や機能を〈もしあったらどうだろう?何だかあるような気がする瞬間〉を子どもに伝わる文・絵で分かりやすく伝えています。お話の世界に引き込まれてしまうそんな力があり、読み物であり、生物学的な知識を得る実用書にもなっています。
変わらずの柔らかで楽しい絵も健在。
アダム・レックス:文 クリスチャン・ロビンソン:絵 なかがわちひろ:訳「がっこうだって どきどきしてる」(WAVE出版 2017)
オリジナルのタイトルは、「SCHOOL'S FIRST DAY OF SCHOOL」。これが「がっこうだって どきどきしてる」になる…訳のうまさがピカイチ。
新しい小学校が建設され、用務員が学校が始まる前の掃除をしているときに、〈学校〉が用務員に話しかけるところからお話がスタート。〈学校〉は学校というところが分からず、やってきた大勢の子どもたちの話し声や態度に振り回され、学校なんて嫌いと言われると飯持がトゲトゲします。
でも…。
学校が始まった最初の1日を、子どもたちがエスカレーターのようにアップダウンしながらも学校になじんでいく気持ちを〈学校〉を通して〈子どもたちの気持ち〉を描いているところがお見事。色の豊かさも魅力。
マイケル・モーパーゴ:作「ガリバーのむすこ」(小学館 2022)
「ガリバー旅行記」を題材にしながら、作品を読んでいなくても読んでいくうちに実に良いタイトルだなと感じる物語。
アフガニスタンで父親と妹を内戦で失った男の子が、母親より先に船でイギリスをめざしつつ船の難破で小人の国にたどり着きます。
その国には300年ほど前にガリバーがたどり着き、隣の島との争いを鎮めた歴史がありました。
この物語では、時を現代に置き換え、なかよく平和に暮らしていても油断をすると独裁者は現れ、些細な理由で互いの国の住民たちが憎しみ合う…物語ではゆで卵の殻をどこから割るかという作者の皮肉を効かせています…どうやってその争いを収めたのかと主人公の男の子がかつてのガリバー同様、元の世界に戻る大きな流れを持ったお話です。
物語は、主人公の男の子ばかりではなく、男の子と兄弟のように寄り添う小人や元の世界に戻る冒険と支え役を果たす女の子が章を変えて語りで進めていきます。
言葉の大切さ、クリケットというスポーツが果たす大きな役割、コロポックル伝説のように小人の世界があちこちにあるという土着性…何よりも読んでいて読みやすく理解しやすく、現代社会・世界を考える大きな刺激となる物語になっています。