かしわ哲「あったかさん」(小学館 1998)
サブタイトルは、「サルサ・ガムテープからのメッセージ」。
タイトルの「あったかさん」は、著者が、新潟県の中部地域のお年寄りたちが、知的に障害をもった人たちを、あ「あったかさ」と呼んでいたにヒントを得た造語で、とても心地良く、もっともぴったりくる言葉だと綴っています。
この本では、サルサ・ガムテープを結成した経緯や96年のスウェーデンでのコンサート、メンバーとの出会いの数々、ピアニスト越智章仁との出会い、舛次崇の絵画表現など自身が体験し、自身の目で確信したことなどを福祉とは違う視点で自身の想いや考えを具体的に綴っている…そこがすごい。
初期の「フライドチキン」や「水曜日はミソラーメン」が生まれ他エピソードも楽しい。
読んでいくとサルサ・ガムテープがロックンロールのライブバンドそのものだということが伝わってくる。
そして今もなおメンバーは変わりつつもバンドがゆるぎなく続いていることにロックンロールはリズムでビートで、エネルギー!を感じる。同じことを中の写真や絵にも喜びや力を感じる。
四半世紀も前の本ながら現代にも当てはまるさまざまな壁とそれを乗り越える思いを感じることができる。
武田砂鉄「べつに怒ってない」(筑摩書房 2022)
著者の気持ちにちょっと引っかかったり、あれっそういえばという刺さりこんできたことをさらりとまとめたエッセイ集。見開きのページに収め、文のとっかかりがすんなりと入れる…上手さプラス心を寄せてしまう親近感がある。
最初から読まず、適当にページをめくって読むを毎日繰り返して読み通すのも楽しい。
サルサ・ガムテープ「アイタイ!」
先週、テレビのチャンネルをいじっていたら「ハートネットTV」でサルサ・ガムテープが出ていて、「アイタイ!」という曲を演奏していた。短い詩のフレーズを繰り返し、ゴキゲンなロックンロールの曲に心躍る、ウキウキしてきた。
詩とリズムが裏打ちにきちんと合い、繰り返しのビートが気持ちよい。
世界中のいろいろな人たちが訳詞で、その人らしい音・サウンドで「アイタイ!」を歌うのを見て、この歌の力と広がりのすごさを感じる。
いろいろな君・キミ・きみに会いたいというメッセージは、コロナ禍ばかりではなくリアルな存在に近づきたいという当たり前の気持ちで、普遍的なこと。
ほとんど見ないYouTubeでもサルサ・ガムテープのライブ映像を見て、そういえばと思い出して図書館からCD「NHKみんなのうた まひるのほし」「サルサ・ガムテープ」を借りてきた。
「フライドチキン」や「水曜日はミソラーメン」は昔からお気に入りで、繰り返しながら変化をしていく詩とドカンドカン、ボコンボコンのポリバケツドラムの音、ストレートで突き抜ける曲の良さ…大きな音で聴いていたことを思い出し、ヘッドフォンで再現。
25年以上もバンドが続いてることに驚きつつもロックンロールは不滅の音楽だということにも気づかされる。
サルサ・ガムテープが忌野清志郎の「JUMP」をどこかの大きな集会室で演奏している映像をYouTubeで見たが、飛び跳ねるエネルギーが湧き出ていて気持ちよかった。
ドン・フリーマン「門ばんネズミのノーマン」(BL出版 2008)
ノーマンは美術館の裏手にある秘密の抜け穴を守る門番のネズミで、美術館の地下室にしまっているお宝の美術品を仲間のネズミたちを案内しています。
ノーマンには絵を描いたり針金で工作をする趣味があります。ある日、美術館の立て札で彫刻コンテストの作品募集をしていることを知ります。ちょうど針金で作った〈空中ブランコをするネズミ〉の作品を作ったばかりのノーマンはいてもたってもいられなくなり…美術・彫刻を愛し、モノを創り出す魅力を知っているノーマンのひたむきさとノーマンを目の敵にするガードマンとのかけひきばかりではないどこか通じ合う世界に引き込まれてしまう1冊。話の展開のおもしろさ、モノを創る楽しさは子どもの心にストレートに届くような気がします。
この物語を読んだ後に、「としょかんねずみ」(ダニエル・カーク 瑞雲社)シリーズへ興味がつながっていけば、もっと世界が広がるようにも思えます。
ドン・フリーマン「ターちゃんとペリカン」(ほるぷ出版 1975)
よく練られたお話でお気に入り。
毎年ターちゃん家族は、夏休みにいつもの浜辺をキャンピングカーで訪れます。
そこには顔見知りになった1羽のペリカンが去年と同じ場所の杭の上にとまっています。
ターちゃんは、今年はじめて魚釣りに挑戦。長靴を脱いでターちゃんはえさ探し、ペリカンのみごとな魚とりを見たり…満潮になって流されていく長靴の行方やものを言わないペリカンとターちゃんとのやりとりは、子どもにとって不思議とは思わずすんなりと受け入れられるウマい作りです。
作者がペリカンを選んだ理由のなるほど感や満足した一日を過ごしたターちゃんが夕食時に両親に話すひとときがステキです。幸せな少年時代を描くことは今でも大事なことだと教えられる作品。
アドリア・シオドア:文 エリン・K・ロビンソン:絵 さくまゆみこ:訳「わたしと あなたの ものがたり」(光村教育図書 2022)
表紙の〈さくまゆみこ訳〉を見て読んだ作品。
経済的に恵まれ、教養・高学歴の両親に囲まれていると思われる黒人の少女の物語。
白人ばかりの教室に茶色い肌の子どもは私1人。
奴隷制度があった時代の具体的な生活や人身売買、公民権運動が起きた時代のデモ行進やデモ隊への虐待…学ぶことは好きだし、勉強できることはありがたいけれど、教室げは私は1人ぼっち、そんな中で〈真実を知ることにはどこか恥ずかしさを感じる自分がいる〉これってけっこうキツい。
これが今の時代の物語だと思うと、アメリカ社会の根深い何かが伝わってきます。
それでも祖母、母親から続く血の中で、母親から伝えられる「望めば何にでもなれる、そんな自分の姿」が見えるといいなというメッセージが読み手の子どもに届きます。
ページをめくるたびに主人公の表情、とりわけ目の力が印象的。
〈あとがき〉は親世代が読んで、子どもたちに伝えてあげたいもの。
ドン・フリーマン「やぎのグッドウィン」(福音館書店 2019)
ドン・フリーマンの娘さんが〈あとがき〉で、ドン・フリーマン夫妻が牧草地のヤギがうれしそうに絵の具をくちゃくちゃ噛んでいるのを見て、そのことを題材として絵・文の原稿を書き、生前何回も書き直していたことを綴っています。
この物語は、農夫に飼われているひとりぼっちのヤギ・グッドウィンが毎日楽しく暮らしながら〈何かをくちゃくちゃする〉ことが大好きという秘密を持ち、ある日絵の具のチューブを見つけてくちゃくちゃすると…どうなる…とんでもなく楽しい騒ぎになるという楽しいお話。
ちょっと困ったことにもなるけれど、最後はいろいろ大変だったことがハッピーエンドにつながり、めでたしめでたし。
ドン・フリーマンの没後久しくなってから出版される作品は、掛け値なしに楽しく読んだ後に気持ちよくなれるものばかり。
それだから再発売もされるのかも。