読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

森絵都「あしたのことば」(小峰書店 2020)

帯にはに〈言葉をテーマに綴る8つの物語〉とあり、作者が選び取り、言葉を大事にしたパターンの違う短編が詰まっています。1編ごとに違う画家がタイトルの絵を描き、物語の雰囲気や色あいが違うことを印象づけていますが、何より書きわける作者のすごさを感じます。これなら読める、自分の気持ちにしっくりくる物語に出会える短編集。言葉を拾い集めること、伝えること、感じること、分かりあうこと…〈言葉〉が持つ深さを堪能しました。

「あの子がにがて」で使われている〈馬が合わない〉〈虫が好かない〉〈犬猿の仲〉などの言葉を、「こんだけいろんな言葉ができたのは、やっぱり遠いむかしから、どこにでも、だれにでも、にがてなあいてがおったせいちゃうやろか。そのあいてへの腹立ちを、むかしの日本人は、うまいこと馬や虫にすりかえようとしたのかもしれん。人類の英知やな」とうまく説明し、教えられています。

短編集最後でタイトル作の「あしたのことば」の一節「…ふりむくと、男子のひtり、小林くんが笑った〈またあした、遊ぼうや!〉…たったひとこと。短い言葉だった…心が、遠い星へ発つロケットみたいに、ぐわんとうきだった。…小林くんがくれたのは、あしたの言葉。新しい町へきたぼくの、新しい未来へつながる言葉だった」は、心が持っていかれるような文。

「あしたのことば」