昼田弥子・作 光用千春・絵「エツコさん」(アリス館2022)
タイトルのエツコさんは、小6の子・真名のおばあちゃんで、昔は学校の先生。定年後は交通安全のボランティアを4年くらい前までしていました。
エツコさんは今78歳で認知症を患い、真名の両親と一緒に暮らしています。
物語は6つの短編連作で、5人の子どもがそれぞれエツコさんとちょっとした出会いをし、エツコさんの生きてきた歩みや外見上のこと、そしてエツコさんの心の内にほんのちょっぴりですが触れあい、温かな気持ちになる物語。
エツコさんが「きいろいやま」の中でユウトに語る「最近、いなくなるの。ときどき自分が見つからなくなるの。今朝も、なんだか、よくわからなくなっちゃったのよ」という言葉は、とてもリアルです。「エツコさん」では、エツコさんから見える世界が描かれますが、真名をはじめ、家族がエツコさんを理解しながら支えていることが伝わってきます。
5人の子どもたちの物語では、樹と明里・日菜、航平それぞれの物語はちょっと不思議で温かさにあふれ、ユウトの物語は自分を受け入れ、真名の物語はエツコさんが忘れてしまう空白にいちんと意味を見いだし…全体として認知症を生きる人を理解し、尊厳を守る物語になっています。
過ぎ去ってしまい、取り戻すことができない時間ではなく、過ごした時間の積み重ねという見えない記憶は消えない…最後の数ページはそんなことを感じさせてくれます。