読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

高橋久美子「一生のお願い」(筑摩書房 2022)

2018年から2019年にかけて連載していた「一生のお願い」をメインに、著者自身のホームページ掲載のエッセイを編集してまとめた1冊。

著者の作品は、筑摩文庫の「いっぴき」しか読んでいないので何とも言えないが、「いっぴき」よりも読みやすく、文がしっくりくる。

中学生の頃から自らを詩人だったと書き、自分で見つけた言葉、拾った言葉、体験から学んだ言葉を拾い集めて書き留め、身近なことがらを題材に共感したり、心安らいだり、なるほどね…とさせられる作品になっています。

読んでいておもしろかった文はたくさんあるけれど、「翻訳ほにゃらら」という文の中で、絵本の翻訳を依頼されたときに断るつもりだったけれど、編集者からの依頼文に「詩人である高橋久美子さんに訳してもらいたい。あなたが書いてきた歌詞が好きだから依頼した」という一文があり、「一日寝かしてみようと、ひとまず寝た。困ったらとりあえず眠る、これが大事だ。翌日、すっきりとした頭になった私は、会って話だけでも聞いてみよう、断るならそれからでも遅くはあるまい。そう思うようになっていた。」は、新しいことや困難に立ち向かう心の決め方として、そうか!と唸ってしまう。ステージでの心も持ち方とも似ているのか…とも。

もう一つ、「おかあさんはね」という絵本を4ヶ月かけて翻訳した際に、「Motherという単語は一度も出てこないが私はタイトルを「おかあさんはね」とした。お父さんから反感を買うことは承知で、だけど生命を世に送り出し続けた母たちに敬意をこめて」と綴り、この文の最後に「2022年、海外でトランスジェンダーの男性が出産したというニュースを見た時、「おかあさんはね」のことが脳裏をよぎった。どんな人も必ずお母さんのお腹から生まれてきている、という当時の自分の確信は間違っていたことを知ったし、人を傷つけてしまうかもしれないことを考え…30年、100年残る本を作りたい…想像力をもっと広げて、これからも迷いながら探していいたいと思う」と結んでいる。

詩や文章を書き続けることに十分な覚悟を持っていることがうかがえる文があちこちにあり、永く読み続けたい作家のひとりになりました。

どのページか分からなくなったけれど、著者の書く文にはドラムを叩いていた頃のリズムのようなものがある…そんなことを誰かに言われたことを書いているが、確かにいくつかの小節に収まるようなリズム、ビートが感じられる箇所がありました。

高橋久美子「一生のお願い」