読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

岡康道「夏の果て」(小学館 2013)

小田嶋隆さんとの対談集を介して著者を知り、CMプランナーとしての業績も知った次第。

対談集を読んだ後だったので、小説というよりも、長く抱え込んでいたものを文にして書き留めた著者自身への物語として読んだ。先入観が入り、良くない読み方なんだろうけれど…。

高校生の時に失踪した父親に対する理解不能な感情と決別の思い、自然と身につけたある種のストイックさ…作中、物語の最終章にある「父の不在は、まぎれもなく僕の青春期の隠されたテーマだった。不在だからこその〈工夫〉や〈エネルギー〉が、僕の行動規範になっていた。人の個性というものがもしあるのなら、僕の個性は父の不在が生んだものだ。」の文は、物語ではあっても自身の思いであったと読める。

父親との再会を果たす最終12章からエピローグにいたる文は、それまでとは文の力が変わり、〈呪縛と自立〉を行き交い、「…父が思うように生きて、その息子が自分であった。という事実だけが確かなことだ。父の不気味な不明さは、誰もが抱え込んでいる不明なのかもしれない。他者にとっては、自分という存在は結局のところ不明なままなのだ。父は、僕でもある。」という末尾の文が圧巻。

1970年代に青春を過ごさなければならなかった思いを高校の同級生:若松(小田嶋隆さんのこと)と語り合う場面は、さっとしか触れていないが重要なところ。

読み終えてしばらくしてから気づいたこと。難しい言葉や言い回しがなく、ごく普通の言葉を駆使して自分の内面を表現している…言葉を届ける仕事をしてきた人ならではの巧みさなのかも。

岡康道「夏の果て」