読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

マイ・シューヴァル ペール・ヴァールー「密室」(角川書店 1976)

マルティン・ベック」シリーズ8作目。これまでとはずいぶん趣が違う作品。まずは前作で犯人から銃弾を受け、1年以上の入院を経ての職場復帰。

復帰後初の操作事件は、チームだったコルベリやラーソンとは離れ、たった1人での捜査。それも初動の見込み捜査で自殺とされた〈密室状態〉。

毎回、作者はスウェーデンの警察組織をおちょくるかのような騒動を織り込むが、そのことがマルティン・ベックやコルベリ、ラーソンといった真っ当な警察官の存在を際立たせている。

今作のおもしろさは、2つの異なる銀行強盗と密室殺人に関わる犯人たちが思わぬできごとで微妙にズレを生じ、ベックが担当する事件とコルベリ、ラーソンらが担当する事件の真実が絡み合って真実が逆転してしまうこと。

その結果、昇進して現場を離れることになっていたベックに対する上司の評価が下がり、ベックの希望する現場に居続けることになってしまう…これも真実の逆転の故。

もう1つ、ベックの個人的な僥倖として、次作から伴侶となるレアとの出会いが絵が帰れている。いつも胃の痛みを抱え、食欲のないベックが見違えるように楽天的になっていくのが分かる。文中、「スヴェードの密室に入り込んでいくうちに、彼は自分自身の密室から抜け出していたのだ」という文は、ベックがこの8作目で再生し、この作品のタイトルにしたことが分かる箇所。

ちょっと残念なのは、並外れた記憶力を持つメランデルが異動でチームを離れたこと。

「密室」