読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

濱野京子「マスクと黒板」(講談社 2022)

物語は、2020年の6月から始まります。

当時の首相が唐突に3月2日から全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請した現実とリンクさせ、物語では5月末まで休校、6月から各学年半分ずつの分散登校を開始した植野中学校が舞台。そして11月までの半年間を描いています。

新型コロナウィルスの感染は、未だに収まったとは言えないけれど、2020年3月からの休校は、子どもたちにとって計り知れないこと衝撃だったことは確か。

作者は、この状況が数年先に収まったとしても、この特別だった年の過酷な時を忘れないために書いたのでは…と思ってしまいます。

主人公は中2の立花輝(てる)。休校明けで分散登校最初の日に何色ものチョークを使って描いた黒板アートを輝が見て、その絵に釘付けになったところから物語が始まります。輝は熱量が少なく、目立つことが嫌い。美術部に入っているけれど自分の才能の現実は知っているつもり、そして絵の善し悪しは分かる。自分がどうしたいのか…そこに目をつぶっています。

この作品は、輝と輝の隣の席になった藤枝貴理(きり)とが互いにかけあう〈刺激〉と〈分かりあい〉がカギになり、中学生活の思い出づくりのプランづくりへと発展。タイトルは、2人がたどり着いた答え。物語最後の数ページに込められた作者のメッセージがイイ。読み終えて表紙を見るとなるほど…です。

自己主張への目覚め、自己主張のススメもありかな…と。

 

濱野京子「マスクと黒板」