読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

ヤマザキマリ「歩きながら考える」(中公新書ラクレ 2022)

新型コロナ禍で日本に滞在せざるを得なくなった著者が、「パンデミックによって発生した新しい環境に適応し、新たな歩みを始めた私が、出会い、経験し、考えたことの記録」と〈はじめに〉に綴ったとおりの〈考えるテキスト〉。

宗教や哲学が日常にない身としては、文化や教養、家族など違う視点で身近なことを顧みる機会にすることができた。著者が繰り返し使う〈予定調和〉という言葉に、〈いつ何時、何があっても〉よりも、〈昨日のような今日、そして今日のような明日〉を思いやる我が身のお気楽さを問い直す。

4月以来、〈らしさ〉にそれほど煩わされずに過ごす暮らしになり、このテキストが実になるほどとうなずける。

著者のような表現者ではないけれど、文中引用しているアリストテレスの言葉「世間が必要としているものと、あなたの才能が交わっているところに天職がある」を肝に銘じたいもの。

ドリフターズのコントこそが、世界に誇るクールジャパンだと書くくだりと山下達郎から油絵の似顔絵をCDジャケットにしたいという依頼を独特なスタイルの油絵で仕上げていく場面は単純にミーハーじみて嬉しいような心地。

「歩きながら考える」