読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

山下惣一「農の明日へ」(創森社 2021)

7月に亡くなった著者最後の作品。

氏はこの本の中で、繰り返し自分は「小農」と称し、「私が定めた百姓の定義」を述べています。

1.自分の食い扶持は自分で賄う。 2.誰にも命令されない。

3.カネと時間に縛られない。 4.他人の労働に寄生しない。

5.自立して生きる。

そして、小農の定義を「経営面積や投資額ではなく、家族の労働を用い、暮らしを目的として営まれている農業と定めた」とし、「これでくくると日本の99%の農業は小農になる。結局これが強いんだよ」と語っています。

氏が80歳を過ぎて思う姿として、「もとよりカネは欲しいが、さりとて金儲けが目的ではない。目的はふるさとの土に根を張って代々そこで幸せに生きていくことである」と綴り、「農作物がよくできたと喜んでいると豊作貧乏、逆に不作で高値の時にはモノがない。豊作と不作の両方で儲からない。そんな農業で私は生涯を生きてきた。それならば、仕事そのもので楽しむしかない。得た教訓は、百姓の仕事を労働にするな、道楽とせよ。つまり、道楽となるような経営形態を作ることだ。私はそれで生きてきた。金持ちにはならなかったが、さりとて貧乏でもなかった」と振り返り、「…山下語録の第1条であり、これがすべてだ」と言い切っています。

晩年のこととして、病床で初めて味わったシャインマスカットに惹かれ、自宅の前のハウスに1本だけ植え、2020年に20房をならせたことを喜びいっぱいに書いています。体内の百姓の虫が目を覚まし、自分で栽培してみたくなった…古女房と二人向かい合って毎晩のデザートに3粒ぐらい食べられたらいいなあと思っている…」のくだりは、余韻が漂い、この本に巡り会って良かったと思えます。

数々の著書に貫かれている性根の座った生き方、発言に、今の農産物をめぐる激変的な確保の状況を重ね合わせてしまいます。

「農の明日へ」