飯野和好・作「ぼくとお山と羊のセーター」(偕成社 2022)
昭和20年代後半から30年代にかけて、山の中の農村家族の暮らしが詰まっている絵本。
傾斜地でお茶を栽培し、養蚕を営み、牛、羊、ウサギ、ニワトリを飼い、家族で働く農家のありようと、子どももできる農作業を手伝うのが当たり前…エネルギーにあふれていた家族ぐるみの暮らしが描かれています。
タイトルそのままに、飼っている羊の毛でセーターを編んでもらう待ち遠しさ、喜びが最後のページの写真に表れているかのよう。
最近、90歳の女性から聞き取りした話の中に、昭和20年後半に自宅で飼っていた綿羊の毛とラシャ生地を交換してもらい、その生地でコートを自前で作ったエピソードがありました。その方のお姉さんが戦時中、ミシンでスカートを作った話も聞きました。
戦前から農家の暮らしの中では、衣服は自前で作り、つくろいながら長く着ることが当たり前…そんなことを思い出させる作品。
単に子ども時代を懐かしむだけではなく、農業、働くこと、自然とともに日々をダイナミックに生きていたことを伝えてくれる力強さがあります。