読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

東海林さだお「町中華の丸かじり」(朝日新聞出版 2022)

シリーズ45作目。安定した文の良さ、言い回しや目の付けどころは相変わらずのキレ…いつもながらにうまいなと思いつつ拾い読み。「町中華」という言葉は使っていないまでも、著者こそはずっと昔から日常的に町の食堂を描いてきたという思いがある。

一つひとつのタイトルの楽しさ、細かなところへの興味の深さ、くだらないと思いつつやってみる好奇心、物事をちょっとずらしながら見方を変えてしまう文の卓越さ…一気読みよりもちょっとずつ読む楽しみにあふれている。

半分くらいは新型コロナの第1波が猛威を振るっていた頃の文だと思うが、ちょっとした明るさや今まで放っておかれた日常の景色、遊び心…「令和の大事件、コロナ騒動」「だいじょうぶ、日本」「マスクの時代 その1」「マスクの時代 その2」「コロナだった陽」「ガーリックデー!! 新設」など連続しながらも〈あわてない、おだやかさ、平常心〉が伝わってくる。

著者らしさは、「国難ガリガリ君総理誕生す」で、「…いますぐ国会を召集して、〈そり大臣募集〉を決め、〈年齢学歴不問〉で〈人望絶大〉のガリガリ君を総理大臣にしよう。ナーニ、大丈夫、総理大臣は誰でもやれる、ということは現総理大臣で実証済みだし」の文に込められている。もう一つ、「コロナ下の鍋風景は…」では、都知事を女帝・女王に例え、「女帝の威令は常に要請という形」を取り、「女帝は常に冷静である。うろたえるのは常に一般大衆」と連ね、都知事が毎日の感染者数を発表するさし絵には「なんだか手柄話だった」のコメント。怒りを見せずにからかい、笑いのネタにしてしまううまさがさすが。

一番好きだったのは、「私、冷や麦の味方です」。いつの間にかソーメン全盛になってしまい、なんだこれは、と思っていたので拍手喝采

東海林さだお町中華の丸かじり」