読み・聴き・書きクケコ

本と音楽の雑記帳

小田嶋隆「イン・ヒズ・オウン・サイト」(朝日新聞社 2005)

氏のホームページ上で公開していた日記から1998年8月から2005年7月までの7年間分を抜粋・編集した本。

サブタイトルは「ネット巌窟王の電脳日記ワールド」。〈巌窟王〉からイメージする偏屈王らしい世界。

ウィンドウズ95から98へ、そしてXPへ移行する時代だったことを再認識させられる…デフラグやインストール、設定、更新などの単語が繰り返し使われている…今思うに、パソコンってけっこうやっかいなしろものだったこと、それが当たり前だったことを思い返す。

1999年に「MP3」誕生…何回かにわたりCDをMP3に変換してパソコンで聴く、好きなコレクションを作るなどの作業を楽しむ記述がある。音楽を聴く媒体が変わっていく予感と著作権について書いているが、まさか20年のに今のようなダウンロード時代の到来になるとは…。

2002年6月にでは、ナンシー関の訃報について「…取り替えのきかない人だったと思う。テレビを観ている人はたくさんいる。批評眼を持った人間がまるでいないわけでもない。しかしながら、もののわかった人で、なおかつきちんとテレビを観ている人間はほとんどいない。ものがわかった年頃になると、人は、ふつうテレビなんて観なくなるからだ。そういう意味で、ワンアンドオンリーな人だったと思う。スタンドアローンな、唯一の、かけがえのない、希有にして再生不能な才能だったと思う。合唱。」と書いている。この文に出会えて良かった…そう思う。

書いている時代は〈かつての今〉だけれど、当時の時代を知った上で読むと、今更ながら文の切れ味、かちっと収まる感、単語や文の組み合わせの巧みさ、センスの良さに気持ちよく読める。

「イン・ヒズ・オウン・サイト」